猫と、マウス

猫と、マウス。トム&ジェリーが有名ですね。

いつもながらの激しすぎる追いかけっこです。

 

実は、猫とマウスに共通点があることが分かりました。
それは・・

 

猫は前足をぐぱーぐぱーして、通称「ふみふみ」しますが、

これは、成猫の場合、甘えのサインであると言われていると思います。

実は、マウスもこのふみふみと同じ行動をすることが分かりました。
水を飲んでいるときに、その行動が確認されました。

母乳を飲んでいた時、同じことをしたことがあったのでしょう。
その名残は、マウスも猫も残るのですね。

 

ただ・・残念なことに、このふみふみは、甘えの行動に繋がっているかまではわかりません。
たまたま水がでにくかったため、そのような行動が出たのかもわかりません。

やわらかいマットの上にジュニア君を乗せてみましたが、新規な物に対する探究心が勝ってしまい、臭いをかぐばかりで、残念ながら、ふみふみの行動は、確認できませんでした。

 

マウスに甘えるという行動があるならば、どのような気持ちがあるのか、
その解明は、人間の様々な気持ちの最後に残る気持ちに繋がっているような
気がしています。

 


ジュニア君は、今日も、やさしくグーパーと手を動かしながら、こくこくお水を飲んでいました。

マウスの恋愛事情 ーぼく、モテるんだよー

2017年7月、太陽と青空と冷えたオールフリー。
そんな季節の中でおきた小さな恋の物語です。

 

まうくんの誕生
2017年4月上旬。
マウスの赤ちゃんが産まれました。
8匹。その中で1匹、小さい赤ちゃんがいました。

 

まうくん・・・元気に成長しよう!

できることがないマウソックは、せめて祈りを込めて歌を歌うことにしました。

シューベルト アヴェ・マリア

 

まうくんの成長
まうくんは、元気に成長していきましたが、それでも、兄弟マウスより、

小さかった・・


マウソックは、歌を歌います。
シューベルト アヴェ・マリア」。イメージは、サラ=ブライトマン

 

手のひらに乗ったまうくんは、歌うマウソックを見ています。

おー、聞いてくれていますね。
気分ののったマウソック、まだ歌います。

 

・・音がずれました。
気にしません、サラ=ブライトマンなので。(イメージだけ。)
ボリュームを上げていきます。
♪あーべまりぃやー♪あー、ああああ、れどぅみーファー♪♪

 

まうくん、急に何を思ったのか、手のひらの中でくるくる動き出しました。
・・・咬まれました。

 

話しかけたり、くすぐったり、撫でたり、アヴェ・マリアを懲りずに歌い、時には大地讃頌も歌ったり、「G線上のアリア」(CD)を聞かせたり。

そんなことを繰り返して7週間・・

 

花婿まうくん
まうくん、立派に成長しました。
兄弟たちと比べても全く同じ体格。小さいなんて思いません。

マウソックはまうくんを6匹のマウスちゃん達がいるお部屋へそっと入れました。

みんな仲良くね。


ぼく、モテるんだよ
・・・数時間後・・・のぞき魔マウソックが見た光景・・・


まうくんの周りを囲むようにマウスちゃん達がいます。
まうくんのとなりを2匹のマウスちゃん達がぴったりくっついて、その前と後ろにまたマウスちゃん達が2匹ずつ。

 

おー、すごいねー、マウス団子だ!

・・え?そんなに寒い?

ー温度計25℃。適温ー

 

違うよ、ボク、モテるんだよ。

マウス団子は愛の団子だった。
まうくんが動くと、マウスちゃん達も動く。そして、また団子。
・・・愛だね。

 

 

赤ちゃん誕生

それから1週間後、6匹中1匹の妊娠が分かりました。

まうくんを別部屋へと移動させましたが、6匹のマウスちゃん達は、いつもマウス団子を作って、寄り添っていました。

 

 そして、さらに2週間弱経過したころ・・

お部屋の中を見たマウソックは、ふっと、笑顔になりました。

マウス団子の中心には生まれた赤ちゃん(6匹)そして、ママ達がいました。

頑張って産んだマウスちゃんも、見守ったマウスちゃん達も、どの女の子も

一生懸命お世話をして、赤ちゃんは、すくすくと育っていきました。

 

 

 鮮やかに、形のないもの

何年もたって、ふと「シューベルトアヴェ・マリア」(CD)を聴きました。

 

イントロが流れ、変わることのないサラブライトマンの声。

もうこの世にまうくんも6匹のマウスちゃん達も、あのとき生まれてきた

赤ちゃんもいません。

 

鮮やかに覚えているあのマウス団子。

黒毛のマウス達が残してくれた形のないもの。

今も、そして、これからもずっと温かい。

ジュニア君は、きっと、治る。

4月29日 昭和の日 8:15 動物病院に到着

 

診療予約を前々日に取っていた。

 

ジュニア君の掻痒行動の回数は、ここ2〜3日で増加した。

 

気持ちが重くなる。ここ1週間のうちに掻痒行動が止まらなければ、症状は、どんどん悪化の一途である。

 

マウソックは、こんなことを考えていた。

 

JAC阻害剤を経口投与するー

 

でも・・少し考える。飼い主である私が、JAC阻害剤の話をしたら、臨床獣医は、それに引きずられてしまうだろうか。

 

マウソックは、そっと、ジュニア君を見ました。

ジュニア君もこちらをじっと見ていました。

 

臨床獣医の経験値を信じてみる。JAC阻害剤は、言わないでおいたほうがいい。もし、季節性のアレルギーならば・・JAC阻害剤はいらない。

 

ジュニア君、先生に会いに、行きましょう。

 

家の扉を開けた。土曜日の朝日が、眩しい。涼しい春の空気の中、マウソックは、重い気持ちを抱えて、動物病院を目指した。

 

獣医師は、季節性アレルギーを疑った。

獣医師は、ジュニア君を見ると、ひどく厳しい顔をした。マウソックは、その顔つきに暗い気持ちを隠すことができなくなった。つとつと経過を話し始める。

 

2020年12月中旬、ステロイド+抗生剤経口投与を1週間継続したら、2〜3日で劇的回復。それから、2回/日、3週間連続投与。薬が終了。掻痒行動確認できない。皮膚の赤み、傷もないため、寛解ととらえた。それから、3か月経過し、4月上旬、おやつをあげた。

 

マウソックは、目を落し、後悔を口にした。それがまずかったのだと思います。

 

獣医師は黙って、マウソックを見つめた。カルテには、うねるような字で、マウソックの言った経緯が並んでいた。

 

4月中旬くらい、掻痒行動が確認したため、おやつは中止。それでも、掻痒行動が止まらず、ここ2〜3日で、掻痒行動が増えたことを確認した。

 

マウソックは、そこで黙ってしまった。獣医師は、ジュニア君に穏やかな声をかけると、タオルで包みながら持ち上げた。ジュニア君は、暴れたが、すぐにしっかりと保定されて身動きがとれなくなった。獣医師は、黙って診察をしている。ジュニア君と獣医師の無言の会話が続いている間、マウソックはその会話に入ることができない。不安が無間に湧く。

 

獣医師は、ジュニア君との会話を終了した。そして、厳しい顔のまま話し始めた。

 

耳と目に引搔き壊した痕、そこから、結膜炎症状を引き起こしていますね。何らかのアレルギーを引き起こしていると考えています。一旦は、寛解しいるならば、季節柄のアレルギーの可能性もありますので、以前の薬を投与して、様子をみましょう。

 

マウソックは、黙ってうなずいた。マウソックが欲しかった回答を獣医師が言ってくれたことにほっとしていた。

 

季節性ならば、季節が過ぎれば、治ってくれるということ。

 

そういう希望がただほしかった。

おやつの声が聞こえる。

アレルギーが、出てしまっている。

ジュニアくんをみたマウソックは、暗い気持ちになりました。

ステロイド薬と抗生剤を飲ませ続けて1カ月間。休薬開始から2週間目、するどい爪で自分の脇腹を掻き立てるジュニアくんに、マウソックは、静かに言いました。

ジュニアくん、掻いたらだめよ

ジュニアくんは、掻き立てるのを不意にやめました。そして、確かに聞こえた声の方向を向きました。

だめよ

ジュニアくんは、じっとこちらを見ています。

だめよ、ね

念を押すように、マウソックは、言いました。

ね、掻かないのよ。と、言って、ゆっくり、うなずきました。

ジュニアくんも、こくり、うなずきました。

いい子ですね

マウソックは、にこやかにまた、うなずきました。

ジュニアくんも、うなずきました。そして、じっとマウソックを見つめました。

マウソックは、手をヒラヒラとふりました。ジュニアくんは、後ろ足で立ち上がると、片手でそばのおもちゃをつかみながら、片手をおもむろに上げました。

そして、さかさかマウソックの前までよってくると、立ち上がり、鼻をヒクヒク動かしていました。

おやつ。

ついさっきまで痒そうにしょぼしょぼしていたジュニアくんの目は、きらきら輝やいていました。

 

 

 

きらきらと耀く目、引き込まれる前に立ち去る飼い主かな

余談-マウソックの大きな声で独り言 第4回

マウソックの大きな声で独り言をお読みいただき、誠にありがとうございます。

前回、「余談ーマウソックの大きな声で独り言 第3回」では、マウスが手を振ることから、集団生活と模倣行動は何らかの相関関係があるのではないかとお話ししました。

今回、「余談ーマウソックの大きな声で独り言 第4回」では、その仮説の根拠となった研究を紹介させていただきます。

 

早稲田大学の研究
―隔離飼育されたマウスの「周囲に馴染まない」⾏動は、集団飼育されたマウスとの同居で改善―

■登場鼠物
 マウスA君
 マウスB君
 マウスCくん
 マウスDくん

■観察
 生後4週間で離乳した(巣立った)A君、B君、Cくん、Dくん
 A君 :一匹生活スタート!
 B君 :一匹生活スタート!
 Cくん:集団生活スタート!
 Dくん:集団生活スタート!

 そして・・・35週間後
 A君、B君、Cくん、Dくん、みんなで、集団生活スタート!

 A君 :集団生活になかなか慣れません・・・
 B君 :集団生活になかなか慣れません・・・
 Cくん:集団生活にすぐ慣れたよ!Dくん、くっつこ!!
 Dくん:集団生活にぼくも、すぐ慣れた!Cくん、くっつこ!!

 そんな2匹をみていたA君、B君・・・さらに数日後・・・

 A君、B君、Cくん、Dくんみんなで仲良くくっついてマウス団子が完成。

画像1

          図1 マウス団子・・暖・・
         (マウス団子:ハドリング(寄り添い行動))
赤い線がついているマウスが、このお話しに置き換えると、CくんとDくんに該当します。

■考察
―集団生活をするまわりのマウスを見て自然に真似をするようになる―このような実験から、周囲になじまない行動は、集団飼育されたマウスとの同居で改善すると結論付け、精神疾患の治療法開発研究への寄与に期待できるとしています。

 

マウソックの観察
マウソックは、この結論に、+αとして、マウス個体に環境がどのくらい合っているのかが原因しているのではないかと思っています。

詳細は、以前記載した「マウスが鬱になっちゃった」をお読みください。

■マウスが鬱になっちゃった
概要
ととくん、ここくん、ももくん、ぽぽくんは、マウス団子を頻繁に作っていました。そのうちにマウス団子が壊れることが頻繁に観察されました、観察を続けると、ぽぽくんが執拗な攻撃に合っていることが分かりました。そして、ぽぽくんは、鬱様行動をとるようになってしまいました。

なぜ、寄り添い行動から鬱様行動を発するまでの攻撃行動になってしまうのか、また別の一例を下記します。

■ジュニア君とあーちゃんの場合
ジュニア君は、離乳して1か月程経過したのち、実は3日〜4日ほどあーちゃん(ジュニア君の父親)と同居生活をしたことがありました。

しかし、2匹は、マウス団子を作っても、すぐに鳴き声をどちらかがあげるほどの攻撃行動をお互いがしていました。

このころ、あーちゃんとジュニア君は劇的に生活環境が変化したため、不安があったのだと思います。

実際、不安様行動として、1)あまり動かない 2)暗いところにいる時間がやたらに長いということが観察されました。そして、しきりに鳴き声を上げていました。

4日目以降、2匹を単飼育にした結果、時間がかかりましたが、次第に不安様行動が減っていきました。

マウソックの考察
早稲田大学の研究と私のマウス飼育経験から、いかに環境から不安を取り除くか、それが、マウスの模倣行動につながると考えています。

このように結論つけられる数値データは持ち合わせていませんが、大きな不安を抱えているうちは、縄張り意識もあって、マウス団子を作らず、作ってもすぐに壊れ、周りと同じような行動はとらないことを飼育観察から確認しています。

 

マウソックの記憶の中で
ににちゃん、ぽぽくんが私の手元を去って、今、しばらくの時間が過ぎたことに気が付きました。

一生懸命に手を振り返してくれたににちゃんぽぽくんは、
「まぁ、ベスト!ってわけじゃないけど、この環境はまあまあかなぁ」と、伝えてくれていたのではないか

 

マウソックの目にゆらゆらと涙があふれてきました。

 

それを、壊してしまったのは、飼い主でした。
ににちゃんは、おやつによるアレルギーによって、掻痒行動が止められず、皮膚疾患を患い、全身に発症してしまいました。

ぽぽくんは、次第に体重が軽くなり、重さを感じられなくなりました。
死期が近いことを悟った飼い主は、闇のようなかなしみに耐えることができず、栄養ミルクを好きなだけあげてしまいました。
ぽぽくんは、体調をくずし、亡くなってしまいました。

 

今、手元にいるジュニア君は、手を振ることをしてくれていません。
手元にいてくれる時間は、限られています。
至らない飼い主は、手元に残った最後のマウス、ジュニア君の顔を見つめて、手を振り続けています。

―何をいっているの?どうして手をひらひらさせるの?-

時々、顔をかしげながら、ジュニア君の目は、今日もまっすぐに私をみていました。

 


参考資料
早稲田大学 Topic
https://www.waseda.jp/top/news/62583

余談-マウソックの大きな声で独り言 第3回

「食欲の春夏秋冬」をお読みいただき誠にありがとうございます。
―マウスには、豊かな「マウスの表情」がある―そもそもマウスの表情とはどのような表情なのか、マウソックの幻覚??疑いが尽きないですが、まずは、マウスの表情についての研究を簡単にご紹介したいと思います。

マウスしかめっ面スケール
痛みのレベルを表情から評価する研究があります。
 Coding of facial expressions of pain in the laboratory mouse
 Nature Methods volume 7, pages447–449(2010)

人間にとってなかなか、マウス語の理解は難しいため、マウスの目の開き具合、耳の立ち上がり、ひげの張り具合など、痛みによってそれらがどのように変化するかを数値で表します。このスケール(評価基準)を「マウスしかめっ面スケール」として、論文発表されました。このような研究が人へ応用されると、例えば、投薬でどの程度の痛みが現れるのか、また、鎮痛はどれほどのものなのか、術後の痛みやその痛みが治まった状況を目視判断できるようになります。(詳細は、後程のマウソックの大きな声で独り言でご紹介します。ご期待ください。)

マウソックの考察
ただ、このような痛みスケールは、置かれた環境によって個体差が大きく出るのではないかと個人的におもっています。そのため、マウスの表情をお話しする前に、環境の違いから現れるマウスの行動についてお話します。

マウスは、食物連鎖の下層にいることから、身を守るために、情動伝染が非常に大事なのではないかと想像しました。

情動伝染:ある個体が情動表出した場合、それを見ていた他の個体も似たような状態を生みだすこと。

情動伝染は、集団生活と相関があるのではないかと思っています。

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そして、集団生活が長いマウスほど情動伝染が起きやすく、情動伝染の影響が強いほど模倣行動は思った以上に簡単に行えるのではないかと想像しています。

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つまり、「集団生活」「情動伝染」「模倣行動」は単独で動いておらず、集団生活と模倣行動は、情動伝染を介して、繋がっているのではないか―それに該当すると思われる行動が、ペットのマウスに現れた出来事がありました。

マウスの模倣―マウスが手を振る―
■ににちゃん(マウス メス)の場合
ある日、何気なく、ににちゃんに話しかけました。
おやつをあげ、「ににちゃん」と名前を呼びながら、飼い主が手を振った時、ににちゃんは、おもむろに片手をケージの側面につけて、もう片方の手(本来、前足ですが、ここでは、便宜的に「手」と表現します。)をバタバタ上下に激しく動かしました。飼い主が手を振ることをやめると、ににちゃんも手を振ることをやめました。またすぐに「ににちゃん」と声をかけ、手を振ると、また、手をバタバタと動かし始めました。
つまり、私が手を振ると同様に手をバタバタと動かすことが、数回により確認されました。わたしが手を振っている間は、ずっと手をバタバタと動かしていました。この一連の行動は、長期間続きましたが、皮膚病を患ってからは、手を振ることがなくなりました。

■ぽぽくん(マウス オス)の場合
「ぽぽくん」と名前を呼びながら、手を振ってみました。
ぽぽくんも、ににちゃんと同様に手を振りましたが、ににちゃんより、手を振っている時間は短く、飼い主が手を振っていても、止めてしまいました。またすぐに声をかけて手を振ると、振り返してくれましたが、次第に、名前を呼んで手を振っても振り返さなくなりました。

■ジュニア君(マウス オス)の場合
「ジュニア君」と名前を呼びながら、手を振ってみました。
ジュニア君は、チラ見して、すぐに違う方向を向いてしまいました。飼い主の側から離れたりすることはありませんでしたが、手は、動かしませんでした。
名前を呼んでから手を振ることを数か月毎日継続して行った結果、次第にこちらをじっと見るようになりましたが、現状、手を振り返すような行動は確認されていません。

この3匹には、ある違いがあります。性別は、対象外として、ににちゃん、ぽぽくん、ジュニア君の順にそれぞれの鼠生における集団生活した時間の割合が小さくなることです。
◎ににちゃんは、2年4か月で亡くなりました。集団生活を送った期間は、8週齢で離乳してから1年8か月です。
20か月/28か月⇒71.4% つまり、鼠生の7割の時間を集団生活、3割の時間を単独生活しました。

◎ぽぽくんは、3年6か月で亡くなりました。集団生活を送った期間は8週齢で離乳してから2年です。
24か月/42か月⇒57.1% つまり、鼠生の6割弱の時間を集団生活、4割強割の時間を単独生活しました。

◎ジュニア君は、離乳してから集団生活をおくったことがありません。
つまり、鼠生のすべての時間が単独生活です。

今、私の手元で生きているマウスは、ジュニアくんだけになりました。
結膜炎症状も徐々に良くなり、毎日静かに暮らしています。
かの2匹が手を振りながら私に伝えたかったこととは、なんだったのだろう、あの日、真剣に手をバタバタと振りつづけた可愛いマウス達をおもいだしながら、次回、論文を交えて、マウスの模倣のお話しの続きを記したいと思います。

 

【あとがき】
「余談-マウソックの大きな声で独り言 第3回」をお読みいただきありがとうございます。「余談-マウソックの大きな声で独り言」では、論文やペットのマウス達から観察されたことに基づいてマウソック個人の思ったことを記載しております。学術根拠として使用できるものではありませんので、ご理解をいただけますと幸いに存じます。今後とも「余談-マウソックの大きな声で独り言」をどうぞよろしくお願い致します。

食欲の春夏秋冬

2020年11月某日。

窓をそろそろと開けると、
冷え込んだ朝の空気が遠慮なくお部屋の中になだれ込んできました。
朝日が窓枠の端からきらきらと差し込んできます。

窓の外には、いつのまにか落葉して色鮮やかに変わった公園がありました。紅葉に敷き詰められた地面からむき出しの木々が累々と並び、おのおのに枝を広げて、そのか細い先端は、高く広がる青空を指し示していました。

冬になったんだね。
澄んだ青空がどこまでも広がって、からりとした空気が頬に触り、流れていきました。

ぽぽくん、ジュニア君、おはよう。
ぽぽくん、ジュニア君のお部屋の外壁にはカイロを貼り付けています。
壁を伝わってくる温かさに2匹ともとりこ。壁にぺったりとくっつきながら、朝の空気に鼻を動かしていました。

寒いね、カイロあたたかい?
マウソックは2匹を見つめました。

もう1週間ほどおやつはあげていません。
おやつを食べると、ジュニア君の左瞼が、腫れていて、結膜炎のように赤くなっていることが分かりました。なんらかのアレルギーを発症しているようで、どうしても腫れや目やにがひどいときは、抗アレルギー剤点眼と涙液点眼で様子をみています。

マウソックの視線は、無言のまま2匹のマウスの間を行ったり来たり。
2匹は、きょろきょろ眼球の動く、目の前の動物をじっと見定めています。
―おやつくれるかな。でもおやつを受け取るためにカイロから離れるのは寒いな。でもおやつくれるかな。・・寒いな・・―

ぽぽは、動いた
朝日に照らされたジュニア君の目は潤んでいました。
腫れはそれほどひどくはない。掻痒行動もない。目やにもないが、涙が多いのが気になる。
マウソックは、もう微動だにせず、ジュニア君を見ていました。

そんなマウソックを見定めていたぽぽくん。段々期待の気持ちが沸きあがってきました。
―やけに、長くお部屋の前に居ますね。今日こそは、おやつをくれる・・そんな予感がする。これは、寒いとかいってられん-

ぽぽくんは、3年半生きている、おじいちゃんマウスです。
秋に限らず、食欲は、春夏秋冬十分にあって、食べることが大好き。
お部屋の中にある小部屋からついに顔を出すと、背を丸めながらも、すばやくマウソックの目の前まで来て、両足で立ち上がりました。
―今日は、くれますよね、おやつ。―

賑やかに動くぽぽくんは、ようやくマウソックの目の端に入りました。
ちらちらする動きに、マウソックは一言、ごめんね。と声を掛けました。
残念ですが、あげられないんです。
ぽぽくんは、期待で輝く瞳をまっすぐこちらに向けています。
このまっすぐな動物の目は、マウソックの急所をするどく突きました。

マウスの表情
ごはんを新しく入れることで、なんとか誤魔化されてくれないだろうか。
大抵失敗するマウソックの浅知恵がまた炸裂しました。
いかにも、おやつ?の袋が開く賑やかな音。おやつ?が沢山こぼれてくるような楽しい音達。

ぽぽくんの目の輝きがどんどん増していきます。ジュニア君も薄く目を開けました。
―やった!!たのしみ!!―
音達につられてどんどんわくわくしていくぽぽくん。たまらずぴょんぴょんジャンプしながら艶々の目をこちらに向けています。

・・・はい、どうぞ。
からからと容器にはいる幸せな音。
ぽぽくんは、一目散に容器に近づくと、一心におやつを探し始めました。
ーどこかな、どこかな、じゃまだな、これ。どこかな。ー
ご飯のペレットをぽいぽい容器の外に捨てて、かきわけて、かきわけて・・

ぽぽくんの行動が、突然止まりました。
・・・ない。おやつ、ない。

ぽぽくんの目からさっきまでの輝きが、みるみる消えていきました。
憮然とした表情を顔に出して、しばらく遠くを見ていましたが、次第に湧き上がってきたのか不満から、静かな怒りも似た仏頂面をマウソックに向けました。そして、むすりと背をひるがえし、のそのそと温かい小部屋の中へ入ってしまいました。

ジュニア君は、体を横にして目を閉じていました。でも、マウソックとぽぽくんのやり取りにじっと聞き入っているかのように、耳だけを盛んに動かしていました。
―やっぱり、貰えなかったんだ―

午後まで時は進んで。
冬晴れのぬくもりが部屋の中で寝ている2匹を包み込んでいました。マウソックは、マウスの豊かで正直な表情を思い出しながら、温かい日の光の中で寝ている2匹を静かに見ていました。そして、マウス達の小さな願いが叶うだけのことであってほしいと、心の奥に言い聞かせながら、ちいさなちいさなおやつの欠片をそっと容器の中に入れました。